ウィルソン病と治療薬

疾病・病態

先日うちの新患さんで、メルカプターゼ®カプセルを服用している方がいらっしゃいました。詳しく話を聞いてみるとウィルソン病だそうです。ウィルソン病は学生時代に勉強したことはありますが、実際に患者さんに会ったのは初めてでした。なにせ3~4万人に1人しかいない疾患ですからね。今回の記事でウィルソン病とその治療薬について紹介します。機会は少ないでしょうが、もし薬を扱うことがあったら正しく情報提供が出来るようにしてもらえればと思います。


まずウィルソン病について知っておきましょう。
ウィルソン病とは遺伝的疾患で、銅が体から正常に排泄されずに蓄積し、様々な臓器に異常をきたす疾患です。

体内に取り込まれた銅はセルロプラスミンというタンパク質と結合し、銅酵素としてヘモグロビン合成や活性酸素の除去、神経伝達物質の産生などの生理作用を示します。約半分程度が骨や骨格筋に貯蔵され、残りは肝臓、脳、血液中に存在します。
銅は9割近くが胆汁中に排泄され、再吸収はされず最終的に便中に排泄されます。その他には腎臓から尿中へ排泄されます。
細胞内にはATP7Bという銅輸送タンパクが存在しますが、染色体異常によりATP7B遺伝子に異常が生じるとATP7Bが正常に働かなくなり、細胞に銅が蓄積することになります。これがウィルソン病です。

銅が正常に排泄されなくなると体中の様々な臓器に蓄積します。特に多いのは肝臓、脳、眼、腎臓です。どこに蓄積するかで症状も異なってきます。

肝臓に蓄積した場合
黄疸、全身倦怠感、浮腫、悪心、出血、肝炎(急性、慢性、劇症)などを生じます。

脳に蓄積した場合
錐体外路症状(振戦、流涎、ろれつが回らなくなる、歩行障害など)の他に精神症状(抑うつ症状、易刺激性・攻撃性、認知症状、人格変化など)が生じます。

眼に蓄積した場合
黒目の周りに銅が沈着し、角膜の周囲が青緑色~暗褐色になります。これをKayser-Fleischer角膜輪といいます。白内障になることもあります。

腎臓に蓄積した場合
腎障害を起こし、血尿や尿タンパクが出ます。


ここまでの説明でウィルソン病については何となく分かったでしょうか?
次にウィルソン病の治療について説明していきます。ウィルソン病の治療には薬物療法と食事療法です。

食事療法は食事からの銅の摂取を少なくします。銅を多く含む食品には、イカ、タコ、貝類、甲殻類、レバー、豆類、チョコレート等があります。これらの食品の摂取を控えることが必要となります。

そして薬物療法についてですが、現在キレート薬と銅吸収阻害薬があります。それぞれ見てみましょう。

・キレート
現在D-ペニシラミン(メタルカプターゼ®カプセル)とトリエンチン塩酸塩(メタライト®カプセル)があります。いずれも空腹時に服用することによって銅をキレートを作り、可用性の錯体を形成します。これにより尿中への排泄を促進します。

なおD-ペニシラミンにおいては銅以外にも様々な金属とキレートを形成するため、鉛、水銀、銅中毒の解毒にも有効です。鉄やマグネシウム、亜鉛との併用では吸収を阻害してしまう報告がされています。またD-ペニシラミンはSH基を持つため、リウマトイド因子のS-S結合を解離します。このため関節リウマチにも有効なわけですね。

トリエンチン塩酸塩はD-ペニシラミンほどキレート形成作用は強くありません。しかしキレート形成作用は弱いですが、その分副作用も少なくなっています。そのため第一選択薬はD-ペニシラミンであり、ダメだった場合はトリエンチン塩酸塩となります。
適応はウィルソン病のみですが、「D-ペニシラミンに不耐性である場合」とされています。これはD-ペニシラミンが使えなかったり、効果が得られない場合という意味です。

・銅吸収阻害薬
酢酸亜鉛水和物(ノベルジン®錠、顆粒)があります。
ノベルジン®に含まれる亜鉛が、腸管粘膜上皮細胞においてメタロチオネインというタンパク質の生成を誘導します。生成されたメタロチオネインは多くのSH基を持つため腸管における銅とキレートを形成し、銅の吸収が阻害されます。そのためメタロチオネインと結合した銅は糞便中に排泄されることになります。
酢酸亜鉛水和物はキレート薬との併用が可能です。ただし併用する場合は、銅キレート薬と亜鉛がキレートを形成してしまうのを防ぐため、最低でも1時間は間隔を空けなくてはなりません。
またノベルジン®はウィルソン病以外に低亜鉛血症の治療にも用いられます。ノベルジン®自体が亜鉛の補充になるからですね。

ウィルソン病と低亜鉛血症では用法に違いがあるので注意が必要です。
ウィルソン病では空腹時に服用します。これは食事による影響をさけるためですね。亜鉛は食事に含まれる繊維と結合すると腸管細胞への吸収が阻害されてしまいます。ただし空腹時に服用すると悪心・嘔吐などの副作用が出やすくなります。しかしウィルソン病は治療効果が得られないと命にかかわる疾患です。そのため高い効果を得られることを優先するわけです。
一方低亜鉛血症では食後に服用します。低亜鉛血症はウィルソン病のように重篤になることも少ないので、胃腸障害の副作用防止を優先しています。

ここまでで治療薬を3つ紹介しました。
実際のところウィルソン病の治療薬は現在これだけです。治療の選択肢が非常に少なのが現状です。しかしウィルソン病は先天性の疾患で難病指定されていますが、正しく治療していれば一般の人と変わらない日常生活が送れます。また早期に発見すれば発症を予防することも可能です。
もっとも大切なのは生涯にわたって治療を続けることであり、服薬コンプライアンスが悪いと深刻な肝障害や脳機能障害を起こすこともあります。
難病であるがゆえ、なかなかお目にかかることは少ないですが、もし患者さんと関わることがあったら、薬の正しい飲み方、そして必ず毎日続けなくてはならない事をしっかり伝えて頂きたいと思います。

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