神経障害性疼痛について 治療薬もおさらい

神経系の薬

ここ最近タリージェ®錠の使用量が増えてきました。うちの薬局の門前医院では処方していないのですが、他科処方で立て続けに処方されています。おそらく今年の3月にタリージェ®錠の適応が「末梢神経障害性疼痛」から「神経障害性疼痛」に変わったので使い易くなったのでしょう。いい機会なので今回の記事で神経障害性疼痛について確認したいと思います。

まず痛みの分類について確認しておきましょう。
痛みは生じる原因によって大きく3つに分類できます。機械的刺激や熱刺激による侵害受容性疼痛神経の損傷によって生じる神経障害性疼痛不安やストレスなどにより脳が直接痛みを感じる心因性疼痛です。

機械的刺激や熱刺激によって侵害受容器が刺激されると、1次ニューロンを介して脊髄へ、2次ニューロンを介して脊髄から視床へ、3次ニューロンを介して視床から大脳皮質へ刺激が伝達されます。最終的に大脳皮質の一次体性感覚野が痛みを認識します。

侵害受容器を刺激したことによる痛みが侵害受容性疼痛侵害受容器の刺激を脳に伝達する神経の障害による痛みを神経障害性疼痛といいます。
上の図で分かると思いますが、痛みを伝達する神経は1次~3次ニューロンがあります。1次ニューロンは末梢から脊髄までの伝達なので、ここに原因がある場合を末梢性神経障害性疼痛といい、2次ニューロン、3次ニューロンは脊髄から脳への伝達なので、ここに原因がある場合を中枢性神経障害性疼痛といいます。

心因性疼痛は以前は不安やストレスが原因で痛みを生じると考えられてきましたが、近年は不安やストレス以外にも複数の要因が絡まって脳の機能的な変調が生じ、痛みを感じていることが分かってきました。そのため中枢神経障害性疼痛に分類されることもあります。

ここまでで痛みの分類について分かったでしょうか?
神経障害性疼痛治療薬としてリリカ®(プレガバリン)とタリージェ®(ミロガバリン)があります。リリカ®は神経障害性疼痛に有効ですが、タリージェ®末梢性神経障害性疼痛にのみ有効でした。それが3月よりタリージェ®も神経障害性疼痛に有効となりました。つまり中枢性神経障害性疼痛にも効くことが分かったのですね。

ここでプレガバリンとミロガバリンの作用機序について確認しておきましょう。これらは1次ニューロンが後角から脊髄に入ると、ここでシナプスを形成し、2次ニューロンへと刺激伝導を行います。

この時のシナプスを見てみると、シナプス前ニューロンからシナプス後ニューロンへはグルタミン酸、サブスタンスPなどの神経伝達物質が放出されることによって伝達されます。シナプス前ニューロンでは電位依存性CaチャネルからCaがニューロンに流入し、このCaが神経伝達物質の放出を促進します。神経障害性疼痛は神経が傷ついたりして過敏になり、グルタミン酸やサブスタンスPといった神経伝達物質が過剰に放出された状態です。
プレガバリン、ミロガバリンはこのCaチャネルのα2-δサブユニットに結合することで、Caチャネルを阻害します。これによって2次ニューロンへの刺激伝導が抑制され、痛みを感じにくくなるわけですね。

プレガバリン、ミロガバリンは前述したように1次ニューロンから2次ニューロンへの刺激伝導を抑制する作用機序です。この作用機序だと末梢性神経障害性疼痛には有効ですが、中枢性神経障害性疼痛には効かなそうな気がします。しかし今回タリージェ®が中枢神経障害性疼痛にも有効になりました。リリカ®も元々は帯状疱疹後神経痛にのみ有効であり、その数ヶ月後に末梢性神経障害性疼痛に変わりました。さらに線維筋痛症に伴う疼痛に適応を取得し、最終的に中枢性神経障害性疼痛にも有効となりました。このことから1次ニューロンだけでなく、2次ニューロン、3次ニューロンにも同様に働くのだと思われます(教科書や文献には脊髄での刺激伝導の抑制しか書いていませんでしたが)。リリカ®、タリージェ®の代表的な副作用としてめまいや傾眠がありますが、これは中枢神経で作用しないと生じない副作用ですからね。

ついでにリリカ®に適応のある線維筋痛症について確認しておきましょう。
線維筋痛症とは体の広範な部位で疼痛を生じる慢性疾患です。リウマチ性疾患に分類されていますが、免疫系の異常や炎症、関節組織の破壊などはありません。
※リウマチ性疾患 関節や筋肉、骨など痛みを伴う病気の総称です
原因は不明ですが、末梢神経から脳に痛みを伝える上行性痛覚伝導経路の活性化、脳から脊髄へ痛みを抑制する下行性疼痛抑制経路を抑制すると考えられています。

リリカ®の作用機序なら線維筋痛症による痛みの抑制に有効なのが分かりますね。

神経障害性疼痛と治療薬の特徴についてまとめてみました。
今回タリージェ®が中枢性神経障害性疼痛にも有効になりましたが、いずれ線維筋痛症に伴う疼痛にも使えるようになると思います。今後に注目です。
痛みの原因と薬の働き方を知れば、どの疾患にどの薬が効くのかが見えてきます。1つ1つじっくり理解して暗記する手間を減らしましょう。

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