リフヌア錠

呼吸器系の薬

前回に引き続き、新薬の記事を書いていきます。2022年4月21日に杏林製薬からリフヌア®錠が発売されました。慢性咳嗽治療薬として発売が期待されていたものであり、今後使われる機会は増えるでしょう。今回はリフヌア®錠について説明します。

リフヌア®錠の説明に入る前に咳のメカニズムについて知っておきましょう。
咳は気道に異物が入ったり、あるいは痰を排出したりしようとして、咳中枢へ刺激が伝導されることによって生じます。(咳中枢への刺激は迷走神経によって伝えられます)

迷走神経に伝えられる刺激には異物や分泌物(痰)、腫瘍といった機械的刺激、ガスや薬物、寒冷刺激といった化学的刺激、感染症やアレルギーによる炎症性刺激があります。

また神経線維はその構造から有髄線維、無髄線維に分けられます。

咳反射では有髄線維の Aδ線維と無髄線維のC線維が関係しているとされています。
Aδ線維とC線維の神経終末は感覚受容器となっています。Aδ線維の神経終末は急速適応受容体(RARs)といい、機械的刺激によって活性化します。これに対しC線維の神経終末受容体は化学的刺激によって活性化します。Aδ線維及びRARsは喉頭から肺門あたりに分布しており、C線維及びC線維神経終末受容体は肺門から末梢の気管支にかけて分布しています。

このC線維ですが、末梢から咳中枢へ咳を抑制する刺激を伝導する求心性神経として働き、さらにRARsの咳感受性を亢進する遠心性神経としても存在します(C線維から放出されるサブスタンスPがRARsを刺激)。C線維の刺激は咳を起こす作用と、咳を抑制する作用の両方がありますが、最終的には咳を惹起します。(おそらくRARsに対する寄与の方が大きいのでしょう)


ここまでの説明でAδ線維とC線維の咳に及ぼす影響は理解できたでしょうか?
今回の記事で紹介するリフヌア®錠の有効成分はゲーファピキサントといい、これはC線維に対して作用します。
気道の炎症条件下では気道粘膜細胞からATPが放出されます。この気道粘膜から放出されたATPが気道のC線維上のP2X3受容体と結合すると刺激伝導が生じ、RARsにそのシグナルが伝わり、咳を生じます。
※P2X受容体のリガンドはATPであり、1~7のサブタイプがあります。Na⁺、K⁺、Ca2⁺など様々な陽イオンを透過する非選択的カチオンチャネル内蔵型受容体です。C線維にはP2X3受容体が主に発現しています。

ゲーファピキサントはC線維に存在するP2X3受容体を選択的に阻害することで、鎮咳作用を示します。

ゲーファピキサントの作用機序は分かりましたでしょうか?続いてリフヌア®錠の特徴について見てみましょう。

・効能効果は1種類のみ
適応のあるのは「難治性の慢性咳嗽」のみです。
咳には急性咳嗽、亜延性咳嗽、慢性咳嗽があり、これは咳が続く期間によって分類されます。
3週間未満を急性咳嗽3週間以上8週間未満を遷延性咳嗽8週間以上を慢性咳嗽と分類します。慢性咳嗽の主なものとしては
咳喘息
・アトピー咳嗽(気道のアレルギー反応による咳)
・副鼻腔気管支症候群(慢性副鼻腔炎による上気道の炎症と、下気道の炎症が合併したもの)
・感染後咳嗽(感染後に咳だけ残っている状態)
などがあります。その他にも胃食道逆流症による咳、ACE阻害薬の副作用による咳なども慢性咳嗽に該当しますね。治療をしているのに咳が続いたり、レントゲンや肺機能検査に異常がなく、原因が特定できないのに、咳が8週間以上続くものが慢性咳嗽と呼ばれています。
リフヌア®錠は「難治性の慢性咳嗽」に対して用いるので、何らかの治療をしても効果がなかった場合に用いるのでしょう。用法は1回45㎎を1日2回服用します。※規格は45㎎のみです

・主な副作用は味覚障害
添付文書に
「味覚不全は、主に苦味、金属味及び/又は塩味としても報告された。味覚関連の副作用(味覚不全、味覚消失、味覚減退、味覚障害)の発現割合は63.1%であった。」
との記載があります。63.1%(うち味覚不全が40.4%です)なのでかなりの割合です。味神経にはP2X3受容体が存在するからですね。
「大多数は、ゲーファピキサントの投与開始後9日以内に発現し、軽度又は中等度であり、ゲーファピキサントの投与中又は投与中止により改善した。」との続きがあります。中止により改善するのなら良かったですね。

・サルファ剤過敏症の患者には注意
「特定の背景を有する患者に関する注意」の項目にスルホンアミド系薬剤に過敏症の既往歴のある患者との記載があります。交叉過敏症があらわれる可能性がある。ゲーファピキサントはスルホンアミド基を有するので、スルホンアミド薬物とは交叉過敏症を生じる可能性があります。スルホンアミド系薬物とはサルファ剤のことです。バクタ®錠やアザルフィジンEN®腸溶錠、サラゾピリン®錠にアレルギーがある人には注意が必要です。

慢性咳嗽はなかなか治らず、鎮咳薬や吸入薬を用いても効果が得られないケースも多いです。長びく咳はQOLを低下させる要因になります。今回のように新しい選択肢ができたことは嬉しいですね。すぐに処方が来ることは無いでしょうが、いつ来てもいいようにしっかり準備しておきます。

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コメント

  1. より:

    非結核性抗酸菌症も咳の症状があります。この薬は適用外だと思います。
    非結核性抗酸菌症が完治する薬はありません。クラリスロマイシン等複数の服薬になりますが、副作用もあります。エタンブトールでは目に影響等。
    非結核性抗酸菌症に関する内容を掲載していただくことは可能でしょうか。
    私は薬剤師ではなく、一般患者です。
    私は癌を経験し、緑内障の治療もしてます。
    とても難しい内容のブログなのですが、自分の飲む薬にも影響あるかもと思い、よく拝見しております。非結核性抗酸菌症状の西洋薬以外に漢方薬について何か経験があれば合わせて掲載して欲しいです。

    • jijineko より:

      仰るようにリフヌア錠は非結核性抗酸菌症には適応外でしょう。
      リクエストにお答えして非結核性抗酸菌症の記事も書いてみます。書き途中の他の記事等もありますので、少し時間がかかるかもしれませんが、なるべく分かりやすい記事にまとめてみますので、少しお待ちください。

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