ヒヤリ・ハット分析 エスワンタイホウ配合OD錠の用量変更

ヒヤリ・ハット

久しく公益財団法人日本医療機能評価機構の薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の事例を見ていませんでした。ようやく目を通せるようになって確認をしたところ、しっかり確認しないと見落としてしまうような事例がありました。その事例は抗がん剤の事例なので是非知っておいて欲しいです。

【事例の詳細】
膵頭部がんの患者に術後補助化学療法を行うためエスワンタイホウ配合OD錠T25 1回1錠 1日2回朝夕食後28日分が処方された。処方箋に添付された患者の体表面積は1.43m2、eGFRは102mL/min/1.73m2であった。通常の初回投与量より少ないため疑義照会を行った結果、エスワンタイホウ配合OD錠T25 1回2錠1日2回朝夕食後28日分へ変更になった。

【推定される要因】
処方する際、1回量と1日量を間違えて入力した可能性が考えられる。

【薬局での取り組み】
体重や体表面積から用量を設定する薬剤が処方された際は、処方箋や患者から得た情報をもとに用量の妥当性を検討する。


まず今回のエスワンタイホウ®配合OD錠について確認しましょう。
これはティーエスワン®の後発品(AG)です。ティーエスワン®はテガフール、ギメラシル、オテラシルがモル比で1:0.4:1の割合で配合されています。
・テガフールは5-FUのプロドラックであり、これが抗腫瘍効果を示します。
・ギメラシルは5-FUの代謝酵素であるジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(以下DPD)を阻害し、5-FUの血中濃度を高く保ちます。
・オテラシルは消化管に分布してオロテートホスホリボシルトランスフェラーゼ(以下OPRT)を阻害し、5-FUからFUMPへの生成を選択的に抑制します。5-FUはF-dUMPやF-UTPにまで代謝され抗腫瘍効果を発揮するので、これにより消化管での活性化が阻害され、下痢などの副作用が軽減されます。


ティーエスワン®の添付文書で効能効果は「胃癌、結腸・直腸癌、頭頸部癌、非小細胞肺癌、手術不能又は再発乳癌、膵癌、胆道癌」となっています。これをもう少し詳しく見てみましょう。

胃癌、結腸・直腸癌、頭頸部癌、手術不能又は再発乳癌、膵癌、胆道癌には基本的にティーエスワン®単剤で用いられます。
この場合は1日2回、朝夕食後に28日間連日投与し、その後14日間休薬期間をおきます。これを1クールとして投与を繰り返します。この時の初回投与量は体表面積によって異なります。

ティーエスワン®は配合OD錠T、配合カプセルT、配合顆粒Tの剤形があり、今回の事例で用いられたエスワンタイホウ®の剤形は配合OD錠Tだけです。いずれも規格は25㎎、50㎎の2種類です。40㎎、50㎎、60㎎に合わせるのは簡単ですね。
(なお規格はテガフールの含有量を表します。初回基準値もテガフールの量です)

初回投与後は患者の状態によって投与量を適宜増減します。増量する場合は1クール毎とし、初回投与量から1段階の増量にとどめることとされています。(初回60㎎からの増量は1回75㎎が限度です)
減量する場合は1段階ずつ行い、最低投与量は1回40㎎です。

ここで問題になってくるのが体表面積です。今回の事例では処方箋に記載してあったので、すぐに投与量に問題ないか見ることができました。しかし処方箋に記載されていなかった場合はどうでしょう?体表面積がどのくらいなんてすぐに分かりません。そのため簡単に計算できるサイトは薬局のPCにブックマークしておくべきでしょう。
こちらに紹介しておきます ⇒ ke!san 生活や実務に役立つ計算サイト

抗がん剤は体表面積によって量が変わってくるものが多いです。癌センターの処方箋を受け付ける薬局ではこういうサイトは必須でしょう。


今回の事例とは関係ありませんが、非小細胞肺癌におけるティーエスワン®の使用についても確認しておきましょう。
非小細胞肺には単剤での有効性は認められていません。シスプラチンなどの白金製剤との併用療法になります。
シスプラチンとの併用では、まずティーエスワン®を1日2回、21日間連続で服用し、8日目にシスプラチン(ランダ®注)を点滴静注します。ティーエスワン®の服用が21日間終わったら、14日間の休薬期間をもうけ、これを1クールとして繰り返します。

カルボプラチンとの併用では、ティーエスワン®を1日2回、14日間連続で服用しますが、初日にカルボプラチン(パラプラチン®)を点滴静注します。ティーエスワン®の服用が14日間終わったら、7日間の休薬期間をもうけ、これを1クールとして最大6クールまで繰り返します。


この辺の使い方は添付文書に記載されていないので、患者さんに癌の種類、病院で点滴をしているかなどを確認し、その上でレジメンを調べておくようにしましょう。


ここまでの説明でティーエスワン®の作用機序、適応となる癌、使い方は理解できたでしょうか?
今回の事例は体表面積から薬用量の違いを発見したものですが、当ブログのやり方は、1を知って10を知る内容にする方針なので、作用機序、用法用量からレジメンまで書いてみました。ついでに腎機能による調節についても確認しておきましょう。
添付文書には記載されていませんが、適正使用ガイドによれば腎機能障害では薬用量を減らすよう書かれています。この場合はクレアチニンクリアランスで判断します。

※クレアチニンクリアランスについては過去記事を参照して下さい ⇒ 腎機能の検査値② クレアチニンクリアランス

クレアチニンクリアランスも年齢、体重、血清クレアチニン値からおおよその数値を算出することになります。計算式は複雑なので、これもすぐに計算できるサイトをブックマークしておきましょう。
⇒ 日本腎臓病薬物治療学会 eGFR・CCrの計算

今回の事例では患者の年齢や体重が記載されていないので算出できませんが、eGFRが102あることから、おそらく腎機能は正常でしょう。


大きな病院の処方箋や、癌患者の処方箋では、徐々に検査値等が記載されるものが多くなってきました。特に抗がん剤では必ず記載されているものを確認しするようにしましょう。また患者さんから採決の結果を聞けたときはクレアチニンクリアランスを算出して、腎機能を評価する習慣をつけた方がいいでしょう。思わぬところで薬用量を変更しなくてはならない処方が見つかるかもしれません。

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